名古屋市立大学大学院薬学研究科・薬学部English SAMPLE COMPANY
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FHIT活性検出蛍光プローブの開発と生細胞イメージングへの応用

 FHITは、がん抑制遺伝子として知られるタンパク質であり、肺がん、乳がん、胃がんなど多くのがんで発現低下や欠失が認められます。FHITの機能喪失は、DNA複製ストレスやゲノム不安定性を引き起こし、がんの発生や進展を促進することが知られています。また、FHITはAp3A(ジアデノシン三リン酸)と結合することでアポトーシスを誘導しますが、その腫瘍抑制機能には酵素活性よりもAp3Aとの結合能が重要であることが明らかになっています。このため、FHITは前がん病変の早期診断マーカーであるだけでなく、新たな創薬標的としても注目されています。これまでにFHIT活性を測定するFRET型蛍光プローブや阻害剤が報告されていますが、創薬研究に利用できる高性能な評価系や有効な低分子化合物は限られていました。
 我々は、FHITのAp3A加水分解活性を利用した蛍光プローブを新たに設計・合成し、プローブ構造を最適化することでFHITに対する高い選択性と反応性を実現しました。さらに、開発したプローブのうちTG-CMPを用いてハイスループットスクリーニング系を構築し、9600種類の化合物ライブラリーから新規FHIT阻害剤を探索しました。その結果、複数のHit化合物が同定され、その中でリード最適化によって得られた8Me-HAは、既報の阻害剤FI-15を上回る活性を示すことが明らかになりました。この阻害剤は非競合的にFHITを阻害し、天然基質Ap3Aの加水分解を効率よく抑制するとともに、FHIT発現がん細胞においてカスパーゼ3/7を活性化し、アポトーシスを誘導しました。本研究は、FHITを標的とした新たな創薬基盤を提供するとともに、FHITのアロステリック制御機構の解明や、非ヌクレオチド型アポトーシス誘導剤の開発につながる重要な成果であると考えられます。
(2018年度修士卒 関本さんによる研究)

 一方で、ケミカルスクリーニングに利用したFHITプローブTG-CMPは選択性、反応性、膜透過性の観点から生細胞イメージングへと適用するには困難でした。
 そこで我々は、まず反応性及び選択性を向上するために、FHIT認識部位にリン酸基とリンカーを導入したプローブを設計しました。中でも、TG-mADPはFHITに対する反応性が従来のプローブと比較して40倍以上向上しました。さらに、リン酸基の高い極性による膜透過性の低下を克服するため、分子内に存在するカルボキシ基をエステル化して疎水性を付与し、細胞内へ取り込まれやすい誘導体TG-mADP-xxx-esterを開発しました。
興味深いことに、プローブの親油性を示すCLogPについて系統的に検討した結果、CLogPが5~7程度の適度な親油性を持つプローブが、膜透過性とFHITに対する反応性の両方に優れることが明らかになりました。
 細胞内では、まずエステル部分が内在性エステラーゼによって切断され、その後FHITによるヌクレオシド一リン酸部分の切断、さらにホスファターゼによるリン酸基の除去が進むことで、最終的に蛍光色素が放出されます。このように複数の内在性酵素反応を組み合わせることで、生細胞内のFHIT活性を蛍光として検出することに成功しました。
 本研究は、これまで細胞内への導入が困難であったリン酸含有プローブについて、適度な疎水性を付与するという比較的シンプルな分子設計によって、生細胞イメージングを可能にした点が重要です。また、CLogP 5~7という設計指針を示したことから、FHITだけでなく、PP2A、PDE5、PC-PLCなど、リン酸基を含む基質を認識する他の細胞内酵素プローブへの応用も期待されます。

[発表論文]
J. Med. Chem., 64, 9567-9576 (2021).
ACS Sensors, 7, 2732-2742 (2022).

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